- 産業医EX
【事例】感染症に対する個人のリスクアセスメント対応について
◎個人のリスクアセスメント
感染症の健康リスクは、『発生の可能性』と『疾病がもたらす重大性』の2軸に分けることができます。
◆発生の可能性については、次の様に『定められた予防対策と注意の要否』で整理しました。
極高:定められた予防対策が十分にされていないため、特に注意を要する場合
高:定められた予防対策がされているが、十分に注意しても発生するおそれがある場合
中:定められた以上の予防対策がされているが、発生するおそれがある場合
低:適切な予防対策により、特に注意しなくとも発生するおそれがない場合
◆疾病がもたらす重大性については、次の5段階で整理しました。
致死的:複数のコントロール不良な高リスク因子があり、致死につながるおそれがある。
時に致死的:コントロール困難な高リスク因子があり、集中治療を要するおそれがある。
要入院加療:高リスク因子を持っており、入院加療を要するおそれがある。
要外来加療:主治医が不在であり、発症時に外来加療を要する。
その他加療:主治医との十分な連携がとれており、発症時の適切な対応が定まっている。
◆そして、優先順位を、⑤直ちに解決、④優先して解決、③速やかに適切に解決、②適切に解決、①必要に応じて解決の5段階で次の様に整理します。
⑤:(極高、高、中)の致死的、(極高、高)の時に致死的、(極高)の要入院加療
④:(低)の致死的、(中)の時に致死的、(高)の要入院加療、(極高)の要外来加療
③:(低)の時に致死的、(中)の要入院加療、(高)の要外来加療、(極高)のその他加療
②:(低)の要入院加療、(中)の要外来加療、(高)のその他加療
①:(低)の要外来加療、(中、低)のその他加療
◎観察に基づく科学データ
新型コロナウイルス感染証(COVID-19)診療の手引きVer2.2(以下「手引き」という。)の9ページに、年齢階級別死亡数が示されており、次のとおりとなっています。
・20代未満:0.0%、30代:0.1%、40代:0.5%、50代:1.1%、60代:4.9%、70代14.6%、80代以上:28.7%
また重症化のリスク因子等として、次が示されています。
・重症化のリスク因子
65歳以上の高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満(BMI30以上)
◎観察に基づく科学データと個人のリスクアセスメントのリンクによる事例
【糖尿病、高血圧かつ肥満の従業員に対して:優先順位⑤】
接客業の事業所において、定期健康診断結果で30歳代の従業員が糖尿病、高血圧かつ肥満の診断でした。特に、糖尿病に関しては検査結果の異常値が有意に高い状態でした。さらに、1年前の定期健康診断事後措置において、適切な治療を受ける指導がされていたにも関わらず、指示に従っていませんでした。
従って、個人のリスクアセスメントの結果は極めて高い可能性で、時に致死的となりました。
産業医としての対応は、「就業不可。ただし、適切な治療を受け、主治医の勤務可能の診断書があれば就業可能。」を事業者に意見しました。
結果として、従業員は医療機関を受診し、一定の休業を取得した後に、主治医の指導の元、適切に勤務しています。
【慢性腎臓病の従業員に対して:優先順位⑤】
旅客運送業の事業所において、慢性腎臓病により、定期的に人工透析を行っている60歳代の従業員について、疾病は主治医の元、適切に管理されており、運転前の健康管理チェック等のルールも適切に遵守していました。
従って、個人のリスクアセスメントの結果は高い可能性で、時に致死的となりました。
産業医としての対応は、主治医と診療情報を共有し、主治医より適切な治療経過であるが、リスクに関しては一定の配慮が必要との意見を受け、従業員に健康管理上の説明を行いました。
結果として、本人の理解及び希望の上、リスクを忌避し、一定期間在宅で休養するとの結論になりました。
【軽度の基礎疾患を持つ従業員に対して】
複数の事業所において、手引きの重症化リスク因子に該当するものの、軽度である従業員が多く居ました。
個人のリスクアセスメントの結果は幅がありますが、概ね、中の可能性で要入院加療でした。
産業医の原則対応としては、「就業可。ただし、医療機関を受診し、感染リスクを含め主治医の適切な加療を受けさせること。」を事業者に意見しました。
結果として、ほとんどの従業員は医療機関を受診し、主治医の指導の元、適切に勤務しています。
